カキステ。

洗面台に落ちていた
娘の、茶色い長い髪の毛を拾いながら

以前
愛車の助手席に落ちていた

長い茶髪に戦慄したことを思い出した。


その時車は清掃に出した直後で
私はショート、娘はロングだが黒髪。
他の人間を助手席に乗せることはなく

その髪の主は
私が知らない間に
私の愛車に乗った、誰か。
運転席の夫の隣で
長い茶髪をなびかせていた、誰か。


その他人の髪を
封筒に入れて
日付を書いて
大切に保管していた私。


もちろん、当時の夫の浮気の証拠として保管していたわけだが

いま、考えてみれば
私も狂っていたな、と思う。



夫が娘ほどの若い子と関係を持ち
それを私が知ることになって

おかしくなってしまった夫。

あんなに私や娘を大事にしてくれた人が
私たちを罵倒したり、無視したり。


しかしこれも

狂っていただけだったんだ、とわかる。今は。


自分は不倫なんて絶対にしないと思っていたから
妻や娘を大事に思っていたから
だからこそ

自分を責めて　責めて
良心の呵責に耐えきれなくなって
心が壊れないように
責任を転嫁しただけのこと。
「お前たちが悪い！」と私たちを罵ることで
彼の心は、壊れずにすんだのだろう。



たった、それだけのことだった。
だから
私が彼を責めずに
どーんと構えていれば
彼は帰ってきたんだと思う。
実際、何度も戻ろうとしていたんだし。

でも
私にはそれができなかった。
私も狂っていたから。

離婚か、再構築か
悩んで悩んで
少しでも有利にことを進められるように動いていたら
自然に離婚になった、と。




今まで通り、
かわいい娘と気に入った家に住み続け
愛車も手放すことなく

帰宅時間を気にせず
仕事に没頭し
疲れたときは外食したり、総菜で済ませたり。
時には娘の手料理（意外とイケる）に舌鼓を打ち。

元夫からは
毎月きちんと慰謝料と養育費の振り込みがある。


穏やかで充実した日々。
今はなんの不満もない。
親しくなりそうな男性はいたけれど、距離をおいた。
もう男性に振り回されるのはこりごりだ。
娘と二人の生活は、最高に楽しい。



結婚していたころは
唯一無二の男性だと信じていた夫だが
今考えると、穏やかで優しい普通の男だったなあと思う。

魔法がとけたんだな。




もし不倫前の生活が続いていれば
不倫なんて、私たちには無縁だったら


私は
死ぬまでずっと
魔法にかかったままだったんだろう。
この世で一番の王子様と夫婦になれた幸せな女という魔法。


今の生活も捨てがたいけれど
魔法にかかったままでいるのも
幸せだったんだろうな。